栗の渋皮煮における二大失敗要因は、「煮崩れ」と「えぐみ・渋みの残留」です。これらは調理者の技術不足というよりも、栗という果実が持つ固有の組織構造と化学組成を理解していないことから生じます。
まず煮崩れのメカニズムです。栗の可食部は高濃度のデンプン質で満たされています。加熱によってデンプンが吸水・糊化(α化)すると細胞組織が大きく膨張します。このとき、果実を包む渋皮(種皮)が完全に無傷であれば、外側からの適度な圧力容器として機能し、内部の崩壊を防ぎます。しかし、下処理の段階で渋皮に刃先が触れ、わずか0.5mmでも傷がついていると、そこから内部のデンプンが噴き出し、鍋の中で果肉が砕け散る原因となります。また、沸騰による激しい対流や急激な温度変化も細胞壁を破壊する直接の引き金です。
一方、渋み残りの原因はポリフェノールの一種であるタンニンの挙動にあります。渋皮には高濃度の縮合型タンニンが含まれており、これが強い収斂味(しゅうれんみ)をもたらします。タンニンはアルカリ性条件下で水に溶出しやすくなる性質を持つため、単なる真水での煮沸では十分に抜けきりません。重曹(炭酸水素ナトリウム)の濃度管理や茹でこぼしのタイミングが狂うと、渋みがそのまま内部に固定化されてしまいます。