サワラの旬には、地域と季節によって「ふたつの頂点」が存在する。関東を中心に好まれるのは12月から2月にかけての「寒サワラ(かんざわら)」だ。水温低下に備えて脂を蓄えた寒サワラは、全身が白濁するほど脂が乗り、まるで中トロのような濃厚な舌触りを持つ。
対照的に、関西や瀬戸内地域で熱狂的に愛されるのが5月前後の「春サワラ」だ。産卵期を迎えた春の個体は、身質が適度に締まりつつもしっとりと柔らかく、水分と淡白な旨味が絶妙な調和を見せる。脂っこさがなく清らかな味わいは、繊細な和食の技法と見事に調和する。
春サワラの真髄を堪能するなら、まずは鮮度抜群の「刺身」や「タタキ」が外せない。身が極めて柔らかく傷みやすいサワラを生で食せるのは、産地近郊ならではの特権だった。淡路島周辺では皮目をサッと炙り、香ばしさを立たせてポン酢や粗塩で食すのが定番だ。火を通す料理であれば、京都の伝統を受け継ぐ「西京焼き」が至高の選択肢となる。淡白な身に白味噌の上品な甘みとコクが染み込み、加熱によってふっくらと膨らんだ身から芳醇な香りが立ち上る。