「にんじんしりしりの本流はツナか豚肉か」という問いに対する歴史的な答えは、実は「本来は豚肉、現代の日常はツナ缶」という二重構造にあります。
琉球料理において豚肉は「鳴き声以外すべて食べる」と言われるほど中核をなす食材です。かつて沖縄の家庭では、ラードで細切りにんじんを炒め、細切れの豚肉やスーチカー(塩漬け豚肉)を少量加えて旨味を補うのが基本の調理法でした。豚肉の脂がにんじんのβカロテンの吸収を高め、独特の青臭さをまろやかな甘味へと昇華させていたのです。
転換点は戦後の米軍統治下でした。物資の流入に伴い、ポークランチョンミートやツナ缶が安価で手軽なタンパク源として島内に広く普及します。下処理のいらないツナ缶は、共働き世帯の多い沖縄の家庭で瞬く間に豚肉の代用として浸透しました。ツナに含まれるイノシン酸とにんじんのグルタミン酸が相乗効果を生み、豚肉アレンジに劣らない濃厚なコクを短時間で生み出せることが、ツナ派を現代の主流へと押し上げた決定打です。現在では、日常のスピード調理にはツナ缶、食べ応えを重視する夕飯の主菜には豚肉と、明確に使い分けられています。