2003年、弱冠20歳で芥川賞を最年少受賞した金原ひとみの小説『蛇にピアス』は、渋谷の片隅で身体改造と刹那的な快楽に身を投じる若者の生態を冷徹なリアリズムで描き、文壇と世間に衝撃を与えた。その映像化のメガホンを取ったのは、妥協を許さない過酷な演技指導で知られた舞台演出の巨匠・蜷川幸雄である。商業映画としての成立と芸術的緊張感の維持という難題に挑むにあたり、最大の難関となったのが主人公・ルイ役のキャスティングだった。
オーディションには多くの若手女優が集まったが、蜷川監督が求めたのは単なる度胸や容姿の美しさではない。魂の奥底に飢えと空虚さを飼いならし、破壊衝動を抱えながら生きる「ルイの実存」を体現できる表現者だった。そこで異彩を放ったのが、まだキャリアの浅かった19歳の吉高由里子である。物怖じせず、どこか世の中を斜めに見つめる飄々とした空気感と、ふとした瞬間に覗かせる危うい透明感。蜷川は即座に彼女の天賦の資質を見抜き、主演への起用を決断した。