かつては専門の蔵元でしか作れないとされていたたまり醤油ですが、近年はクラフト調味料への関心の高まりとともに、個人が自宅で醸造する動きが可視化されています。福井県で自然栽培原料の味噌造りを手がけるマルカワみそが発信した「食塩水を入れるだけで小麦不使用のたまり醤油が仕込める大豆豆麹」の取り組みは、SNSを中心に大きな反響を呼びました。一度は販路開拓で苦戦した手作りキットが、食の自給やオーガニックを志向する生活者の間で熱烈に受け入れられたのです。
自宅で本格的なたまり醤油を仕込むプロセスは、驚くほどシンプルですが、同時に徹底した環境管理が求められます。基本となる設計は以下の通りです。
- 原材料: 乾燥大豆豆麹 500g、湯冷まし水 500ml、天日塩 120g〜130g(塩分濃度約20%を維持)
- 仕込み手順: 煮沸消毒したガラス瓶に食塩水を完全に溶かし、大豆豆麹を投入して清潔なヘラで均一に馴染ませる。
- 発酵・熟成期間: 直射日光を避けた冷暗所(15〜25℃)で最低6ヶ月〜最長3年間静置。仕込み初期の1ヶ月は週に2〜3回、底から優しく攪拌して酸素を供給し、産膜酵母の異常繁殖を防ぐ。
熟成が進むにつれ、淡い茶褐色だった液体は漆黒へと深まり、粘性を帯びてきます。布で濾した最初の一滴は、加熱殺菌(火入れ)されていない生揚げ(きあげ)のたまり醤油であり、酵素が生きた力強い風味を持ちます。また、自家製味噌を仕込んだ際に容器の底や表面に染み出してくる琥珀色の液体、いわゆる「味噌溜まり」を掬い取ることも、最も純粋なたまり醤油を少量手に入れる伝統的な裏技です。