教室の片隅にあったブラウン管テレビ。午前中の授業中、担任教師が木製のスライド扉を開けて電源を入れる瞬間を、当時の小学生たちは息を呑んで待ち構えていました。『いちにのさんすう』は、算数を単なる計算ドリルの暗記ではなく、視覚と直感で楽しむ発見の場へと変貌させた画期的な学校放送でした。
番組の中心にいたのが、全身が白く丸みを帯びたフォルムに、ぴょこんと生えたツノのようなアンテナを持つ「タップ」です。タップは宇宙人とも新種の妖精とも言われていましたが、番組内で明確な生物学的出自が語られることはありませんでした。このあえて設定を語りすぎない抽象性こそが、子どもの純粋な探究心を刺激する絶妙なフックとして機能したのです。
スタジオでは、人間のパートナーである「おにいさん」や「おねえさん」が提示する算数のパズルや図形に対し、タップが身を乗り出して首をかしげたり、閃いて飛び跳ねたりします。数式を書く前に、ブロックを並べる。長さを比べるために自分の体を物差しにする。タップの試行錯誤する姿は、算数につまずきがちな子どもたちの等身大の代弁者そのものでした。